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 52歳で始めるピアノ。その上、楽譜さえ読めない。それでも、毎日の仕事を終えてから独学で練習し、腱鞘炎で指が痛んでも、1日8時間、指に鍵盤を覚えさせていったそうです。
 その努力は近所の噂になり、やがて全国各地のイベントに招かれ、ついにフジコさんの目の前で演奏し、賞讃の言葉を得るまでに腕を上げました。
「チャレンジして最後までできるようになって、それを聞いてもらって感動したって言われて、めちゃくちゃうれしい。今が人生で一番輝いていますよ」と語る、海苔漁師のピアニスト。現在は他曲に挑戦し、少しでも前に進むことを楽しみにしているそうです。
 天台大師智顗の『摩訶止観』には、
「千里の路も謂いて遥と為さず、数歩の地も謂いて近と為さず」とあります。
 千里の路でも遠いと思わず、数歩の地だから近いとも思わず、ただ愚直に前に進む努力をすれば、その努力は決して無駄にならないものです。救い難き凡夫の私たちであっても、日々、無心に積み重ねた精進が大きな喜びとなって自身に還る日が必ずやってくるはずです。



文・南 省吾

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