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「のさり」とは、熊本の漁師言葉で「天からの授かり物」という意味で、義父はこの境涯にも堪えて自らの生き方を大切にし、決して人を恨まないようにと諭したのです。その言葉によって、夫婦は会社も、いじめた人も許し、公害や差別の愚かさを伝える語り部活動を、自分たちに与えられた使命と考えるようになりました。
 雄さんの語り口は、人柄そのままの穏やかなもので、多くの来館者に感銘を与え、元水俣市市長も、
「体の痛みや差別にさらされながらも、水俣病を『のさり』として夫婦で受け止め、苦難を生きがいに変えた。その姿は人々に大きな感銘と勇気を与えた」
と、夫婦を讃えました。
『遺教経』には、
「怒りは功徳の利を失する。忍の徳には、持戒苦行も及ばず」
とあり、「怒り」はこれまでに積んだ諸の功徳を一瞬にして失わせ、「忍辱」は莫大な功徳を得ることができると説きます。厳しく理不尽な現実にも、それに堪えて乗り越えるところに、人としての本当の価値があるのだと存じます。



文・山野 泉

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