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 震災時、津波はこの医師の病院の二階まで押し寄せ、さらに搬送用のヘリはいくら待っても来ない。そうした状況の中で53人の入院患者のうち、自力で動けない約30人をスタッフ総出で避難所まで車椅子で運び、一人の犠牲者も出さなかったといいます。
 震災後は医療再開に奔走し、地域の人脈を生かして土地を確保し、さらに約一ヶ月で内科の診療を再開し、わずか三ヶ月半後には仮設の診療所で全国から応援に駆けつけた医師や、津波で医院を失った地元の開業医と共に診療にあたりました。
 過疎と高齢化、そして未曾有の被災に苦しむ住民たちを目の当たりにしながらも、地域医療の最前線で患者の命を守り、患者の目線に立って生涯現役を誓う、医師の大きな志を感じます。
 仏教では「四摂法」といって、菩薩が衆生を仏道に導き入れて、苦しみから救う四つの方法を、布施(与えること)、愛語(優しい言葉をかけること)、利行(人々のために行うこと)、同事(相手と同じ立場に身を置くこと)として説いています。
 周りの人々を思いやる言葉や、自らを省みず、誠心誠意尽くす行動が、周りを幸せにし、それが結果として自分の喜びにも繋がっていきます。
 他の人々の幸せを目指すところに、自らの幸せや喜びがあります。そしてそれが仏様の御心です。医療において仁術が人の苦を和らげ、その命を救うように、私たちもまた、他を思う仏様の御心を持ち、生きていきたいと存じます。




文・山野 泉

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